温泉津100年会議 開催報告――100年先へ「遺す」ために、いま「築く」ために

みなさま、こんにちは。

令和7年12月20日(土)と21日(日)の2日間にわたって開催した「温泉津100年会議」の開催レポートをお届けします。

目次
はじめに
開催概要
本会議の内容
空き家ツアーの様子
成果と気づき
これからに向けて

はじめに

温泉津100年会議は、島根県大田市温泉津町を舞台に、町の未来を“100年”という長い時間軸で見つめ直し、「いま、この瞬間に何を選び、何を大切にして次の世代へ手渡していくのか」を、世代や立場を越えて語り合うための対話の場です。

この会の背景には、令和5年に実施された「温泉津100人会議」があります。
あの場で交わされたたくさんの言葉は、「湧くで温泉津」という合言葉を生み、温泉津を語るときの共通言語として、町の内と外をつなぐ役割を果たしてきました。

温泉津100人会議では「湧くで温泉津」という町の合言葉が生まれました

そして令和7年度。
温泉津100年会議は、その流れを受け継ぎながら、「何を遺し、何を築くか」を、あらためてみんなで確かめる場として開かれました。

ここで使われた「遺す」という言葉は、単に“残る”という意味ではありません。
「これは大切だ」と思うものを、きちんと次の人に手渡すこと。
一方で「築く」は、誰かが一気に完成させるものではなく、みんなで少しずつ関わり、育てていくものとして捉えられています。

100年という時間軸は、答えを急がせません。
むしろ、「すぐに結論が出なくてもいい」という前提のもと、今の暮らしや町の輪郭を見つめ直し、未来へ向けて共通の土台をつくっていく。
そんな時間そのものが、今回の会議の大切な意味でした。

20日の参加メンバーの様子(扉絵は21日参加メンバー)

開催概要

2日間開催した理由

温泉津100年会議は、12月20日(土)・21日(日)の2日間に分けて開催しました。
これは、仕事や家庭の都合など、さまざまな生活リズムの中でも、できるだけ多くの人が参加できるように、という思いからです。

内容は基本的に同じ構成とし、参加者は都合のよい日程を選んで参加できる形式をとりました。

参加者の幅(世代・立場)

参加者は、町内に暮らす住民の方々をはじめ、地元で商いをしている人、行政や関係団体の職員、学生、そして町外から温泉津に関わってきた人たちまで、多岐にわたりました。

 

世代も、小学生から、長く町を見守ってこられた方まで幅広く、それぞれの視点や距離感を持った人たちが、同じ場に集う時間となりました。
2日間合計で100名を超える参加があり、このテーマへの関心の広がりを感じる会となりました。

会場の雰囲気

会場は、浄土真宗本願寺派 西楽寺。
寺院ならではの落ち着いた空気が、自然と参加者の気持ちを整えてくれます。

意見を強く主張する場というよりも、「まず聞いてみる」「背景を受け取る」ことが大切にされ、初めて参加する人でも言葉を置いていきやすい雰囲気がありました。

「傾聴すること」をなによりも大切に会は進みました

進行面では、発言が一部に偏らないような工夫や、考えを見える形で共有する仕組みも取り入れられ、対話に集中できる場づくりが意識されていました。

本会議の内容

会議の流れ(対話の“型”を共有する)

本会議は、「集まって自由に話す」だけの場ではありません。
対話が深まるための流れや“型”を、あらかじめ共有したうえで進められました。

はじめに趣旨説明とスライド上映を行い、令和5年の100人会議を振り返ります。
その後、「何を遺したいか」「これから何を築きたいか」という二つの問いを軸に、グループごとの対話が進められました。

最初に風景写真を見ながら、「知っているはずの場所」を少し違った角度で眺める時間があったことで、言葉に入る前の“感覚の共有”が生まれていたのが印象的です。

「何を遺し、何を築くか」──思想の共有

会議の中心に置かれた問いは、とてもシンプルです。
「何を遺し、何を築くか」。

ただし、この問いは抽象的な議論ではなく、「温泉津温泉街を中心に、あなたの身近な温泉津のこと」として、一人ひとりの足元に下ろされました。

「立派な答えでなくていい」
「思い出や、小さな願いでもいい」
そんな言葉が何度も添えられ、誰かの実感が、未来へのヒントになることが大切にされていました。

ゲストトークと問いかけ

グループワークの前には、他地域での取り組みを紹介するゲストトークも行われました。

神奈川県真鶴町から来てくださった真鶴出版 川口瞬さんから真鶴町の事例を紹介いただきました

外からの事例は、温泉津を評価するためのものではなく、「自分たちは何を大切にしているのか」を考えるための鏡として共有されます。
聞きながら、参加者それぞれが自分の暮らしや町の風景を重ね合わせていく時間となりました。

真鶴町民が30年前に記録した「美の基準」から、真鶴出版でまとめられた30年続く観光本「真鶴手帳」を見ながら

グループ対話の様子と特徴

グループ対話では、意見を一つにまとめることよりも、思いついたことを書き出し、見える形で共有することが重視されました。

発表も、「そのグループがいま伝えたいこと」を短い言葉で出してよい、というスタンスです。
話すことだけが参加ではなく、聞くこと、書くこと、うなずくことも立派な関わり方。
それぞれが無理のない距離感で場に居られることが、会全体の空気をやわらかくしていました。

空き家ツアーの様子

空き家ツアーを本会前に実施した意図

温泉津100年会議では、本会の前に空き家ツアーを実施しました。
これは「知識として知る」前に、実際に見て、歩いて、感じてもらうための時間です。

㈱WATOWAの近江雅子さんを筆頭に温泉津温泉街空き家ツアースタート

町の現状を身体感覚でつかむことで、会議での言葉が、より具体的なものになることを目指しました。

実際に見て・歩いて感じたこと

知ってるけど、実際に中に入るのは初めてということでドキドキ・ワクワクしながら探検

ツアーでは、空き家が多くなっているエリアや、手を入れなければ傷みが進んでしまう建物の現状も、率直に共有されました。

同時に、空き家が「可能性を持った存在」でもあることを、いくつかの具体例を通して確認していきます。

たとえば、明治時代の建物を改修して生まれた「本と舍」。


令和5年の100人会議で出た「自由に集まれる場所がほしい」「本のある場がほしい」という声が、かたちになった場所です。

また、明治の建物を活用して開業した「温泉津こどもクリニック」では、町に小児科専門医がいることの安心感が、暮らしの中で大きな意味を持っていることが語られました。

会議の議論とどうつながったか

空き家ツアーを経たことで、「これから何を築きたいか」という問いは、より現実味を帯びたものになっていきました。

課題としての空き家だけではなく、「空き家は生まれ変わることができる場所である」ということを踏まえたうえで、次にどんな場や関係が育っていくとよいのか。
参加者の言葉にも、具体性が増していったように感じられます。

成果と気づき

会の成果とはなにか?

今回の会議の成果は、「明確な答えが出たこと」ではありません。

歴史や文化を大切にしながら、時代に合わせた変化をどう受け入れていくのか。
その問いを、多様な立場の人たちと共有できたこと自体が、一つの大きな成果として整理されています。

また、次の世代が地域づくりに関わっていくための入り口として、このような対話の場を継続していくことの重要性も、あらためて確認されました。

印象に残った参加者の声

会議では、次のような思いが、さまざまな言葉で交わされていました。

  • 景色だけでなく、日々の習慣や人との関係も遺したい
  • 子どもたちが安心して過ごせる場所がもっとあったらいい
  • 外から人を迎えつつ、暮らしのペースや誇りは守りたい
  • 空き家は制度だけでなく、人の思いが動かすもの

どれも、生活の中から自然と出てきた言葉です。

「すぐに答えは出ないけれど」

閉会にあたっては、「今日出た言葉や空気を、これからの町づくりに活かしていきたい」
「この時間も、未来へ手渡していきたい」というメッセージが共有されました。

温泉津100年会議は、結論を出す場ではなく、考え続けるための“土台”をつくる場。
その姿勢が、最後まで大切にされていました。

これからに向けて

温泉津100年会議は、今回で完結するものではありません。

令和5年の100人会議から続いてきた対話の流れを受け取りながら、これからも「温泉津会議」として、形を変えつつ継続していくことを大切に考えています。

今回の会議も、「ここで何かを決めて終わる」ための場ではありませんでした。むしろ、ここからがスタートです。

語られた言葉や、共有されたまなざしを出発点に、少しずつ、現実の中で手を動かしていくフェーズへと進んでいこうとしています。

それは、誰か一部の人が担うものではなく、次の世代とともに、手を取り合いながら進めていくプロセスです。

いま町に暮らす人、関わり始めた人、これから関わっていく人。

それぞれの立場や関わり方のままで、「実際に築いていく」ステップへと、歩みを進めようとしています。

温泉津100年会議が大切にしてきたのは、「正解を示すこと」ではなく、「一緒に考え続けられる土台をつくること」でした。

温泉津の何を、未来へ遺したいでしょうか。

そして、これからの温泉津に、何を築いていきたいでしょうか。

この問いは、会議の場だけのものではありません。

日々の暮らしの中で、ふと立ち止まったときに、また誰かと話すときに、思い出してもらえたら。

そんな問いとして、これからも温泉津のあちこちに、静かに残っていくことを願っています。

その名も「温泉津」。読みは「ゆのつ」。意味は「温泉が湧く港」。

世界遺産・石見銀山のかつての積出港にして、土地の人々や旅行者たちの心身を癒した湯治場。
はるか昔、1,400年前からこんこんと温泉が湧くこの町は、“浸れり尽くせり”とでもいうべき、たくさんの魅力に溢れています。

とびきり熱く濃い源泉掛け流しの湯に浸かり、
岩礁の連なる海や猿が行き交う山に遊び、
山陰の海の幸や山菜など自然の恵みを食し、
石見神楽のダイナミックな舞と囃子に酔いしれ、
石州瓦の家屋や寺社仏閣が軒を連ねる町並みを歩き、
次代の担い手たちが灯す明かりで憩い、
土地の文化を育んできた優しくも熱い人々と触れ合う。

温泉津を五感で味わい尽くせば、日々の営みの中でこわばった体や張り詰めた心はほどけ、自分の中からふつふつと何かが湧いてくるのを感じるはず。

ひとつひとつの細胞がみなぎるような活力が。
視界がすっと開けるようなアイデアが。
変化を恐れず一歩を踏み出すための勇気が。

さあ、あなたの中からは何が湧いてくるでしょうか。
温泉津の町は、いつでもあなたをお迎えします。
湧くで温泉津 公式ロゴ

 
文・現象舎 西田 優花/写真・戸倉 幹雄

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